平行世界

眠るという行為は平行世界の自分たちと記憶の同期・整理を行う行為であり、夢はその際に他の自分の行動や思い出を観ているだけである。

数日前(たぶん2013/10/31)

月の明るい夜だった。家の前にある道路の街路樹の周りに、怪しい黒服の集団が集まっていた。なにか儀式でもするのだろうか。先ほどふと外を視たら異様な光景に気が付いたので、そんなことを思いながら、窓からその集団を眺めていた。

よく見ていると、2本の隣り合った街路樹の幹の表面に、なにか光るものを塗りつけていた。かなり広い範囲にそれは塗られていた。光るといってもきらきらと綺麗な感じではなく、むしろぬめぬめと気持ち悪く蠢くような光り方だった。光るそれを塗り終った連中は、今度は月の方に向かって祈り始めた。地面に膝をつき、月を仰いでいた。すると月の光を受けたその光るものがさらに発光し始めた。その光が昼間の太陽のようにこれでもかと明るくなり、そして光が収まった次の瞬間、巨大な蝉の幼虫のような生き物が二体、そこにいた。とてもおぞましく、視ているだけで吐き気がでるものだった。幼虫の体をしつつ、二本脚で地面に立っているのだ。そして、そいつらは鎌のような両手で自分たちを生み出した連中を捕まえ、その針のような口を捕まえた人間の体にぐさりと―――

恐ろしさに麻痺していた僕の体は、そこで我に返って慌てて窓を閉め布団にもぐりこんだ。恐ろしさはすぐに舞い戻り、布団の中でがくがく震えながら次の朝まで眠れないでいた。いつ蝉達が襲ってくるか分からない...。

しかし、それからしばらくは何もなかった。しばらくどころか、僕が大学を卒業するまで何の事件も起きなかった。僕はあの光景と味わった恐怖を忘れはしなかったが、他に誰も見ていないこともあり、信じてもらえないだろうと思って誰にも言ってなかった。そんな僕が友達と一緒にどっかの国(海外っぽかった)に出かけた時。

ホテルに帰ってきた僕たちは、入り口にたくさんの人が集まっている光景を目にした。人々からは好奇心で興味津々な反面、何かを恐れている感じを受けた。なんだろうと思って人を掻き分け中を覗いた僕の目には―――

巨大な蝉の成体が、それだけならまだいいのだが、なんともおぞましいことに二本足で地面に立ち、ホテルの従業員に話しかけていた。その瞬間僕は気が付いた。あの時の蝉だ。あの幼虫が成体になって出てきたのだ。ご丁寧に、昔見た時と同じように二体で連れ添っていた。おそらく(というか後で分かるのだが)つがいのような関係なのだろう。

やつらは、自分は人間と同じ言葉を話せるから人権を認めてホテルにも泊めろ、という趣旨の事を窓口の人に向かって言っていた。まぁ分かるけど、いくら二本足で立って歩いてるとはいえ、手持ちぶさたにしている残りの四本の脚が胸のところでわらわら動いてるのはおぞましすぎるだろう...。

ホテル側はその姿に恐れをなしたのか、宿泊を許可していた。しかし、どの部屋に泊まるのだろうか。このホテルは、裕福な層向けの部屋とそうでない層向けの部屋とどちらも用意していて、僕たちは裕福でないほうの部屋に泊まっていた。そこは複数の客で一つの大きな部屋を共同で使用するというものだった。共同使用と言っても、寝るときに同じ部屋にいるだけで昼間は皆外に出ているが。また男女は別になっている。

寝るときにいっしょになるくらい誰が近くで寝ていてもあまり気にはならないが、隣で巨大な(そして記憶によれば人間を食料としていた)蝉が寝ているとなれば話は別である。僕はもう一人の仲間と一緒に急いでホテルを駆け上がり(最上階が僕たちの部屋だった)、部屋に入って扉を固く閉めた。

奴らが部屋に来ないことを必死に祈っていたのだが、その願いは残念ながら聞き入れられなかったようで、しばらくすると扉が外から開けられそうになった。扉は内側に開くようになっていたから、すぐさま扉を押さえて向こう側に押し付けた。

扉の向こうからくぐもった声が聴こえてくる。「おーい、ここの扉を開けてくれぇ」

僕は絶対に声を出さないようにしながら扉を抑えていたが、やがて向こうの力が異常に強く、このままだとしばらくすれば扉は破られてしまうだろうということに気が付いた。

「合図で部屋を出よう」

一緒に扉を抑えていた仲間がそう言った。この部屋は特殊な造りで、外からの入り口は一つしかないが、内側からは二か所扉があって外に出ることができるのだ。そういう造りになった意味は知らない。

すでに限界まで来ていた僕は頷いた。

「行くぞ...1...2..3!!!」

僕は一気に扉から手を放し、柱を挟んで反対側にあったもう一つの扉から脱兎のごとく飛び出した。そのまま全速力でホテルの階段を駆け下りた。一瞬後ろを振り返ってどうなったかを確認してみたが、巨大な蝉が扉から部屋に向かって転がり込んでいく姿が見えた。おそらくこちらのことはばれていないだろう。少しだけ安心してそのまま女性陣と合流した。聴いてみると、女性陣は風呂に入ろうとしたところ(ここの風呂はこれまた共同風呂の銭湯のような感じの風呂だった)蝉が現れ、何の違和感もなくそのまま風呂に入って来ようとしたところを腰を抜かしながら逃げ出したらしい。

とりあえずここのホテルはやめようという話になり、その晩は皆でバーのようなところで夜通し酒を飲んで過ごした。

次の日、僕たちは予定だったテーマパークのようなところに行った。蝉の事を忘れようと頑張って楽しんでいたのだが、その中のアトラクションの一つの簡易ジェットコースターのようなものに乗り込んだ時になんと奴らがいた。戻るに戻れないため、恐れおののきながらそのまま乗り込んだ。

「おい」

ジェットコースターが昇り切り、今から落ちるしかなくてドキドキしているところに後ろから蝉が声をかけてきた。

「この乗り物の建てられている下に俺たちの群れがいる。これが終わったらお前らを食い尽くして駆逐してやる

一瞬何を言われているのか分からなかったし、理解してからも頭が追い付かなかった。

ジェットコースターはすぐに終わり、蝉達は去って行ったが、僕は腰を抜かして降りられないでいた。大丈夫か、と声をかけられ、今さっき言われたことを仲間に言っている途中に、蝉が去った方向から悲鳴が聞こえてきた。おそらく群れとやらが出てきて人を襲い始めたのだろう。

とりあえず逃げようということになり逃げていたのだが、入り口まで来るとなんと入り口の門が閉じられていた。外には武装した警官たちがずらりと並んでいる。扉を開けてくれるよう頼んだが、扉を開けると奴らが外に出てくるかもしれない、とか言って開けてくれない。仕方ないから別に外に出る場所がないか探そう、ということで僕たちはそれぞれ別の方向に分かれて走った。

出口を探していると、銃を手にして怪獣をたおすアトラクションの建物が視えてきた。その横を通るときに中から従業員のような人が出てきた。

「おい、ちょっと待ってくれ! こっちを手伝ってほしい!」

呼び止められた。話を聴くと、なんとそのアトラクションの銃を改造し、現実世界でも何かに向けて謎のビームのようなものを撃てるようにしたらしい。

僕は仲間に連絡して来てもらった。

「これで奴らを倒せるかもしれない」「さぁ行こうか」

ということで悲鳴の聴こえる方に向かって行き、奴らの群れがいるところまで辿り着いた。やつらは近くの人を捕まえては、その口でぐさりと挿し、(おそらく)体液を吸ってはその場に捨てていた。

奴らに向かって銃をぶっ放す。

ぎゅるぎゅるぎゅると青白い光線が飛び奴らのうちの一体に命中した。するとそいつははじけ飛んだ。

「よっしゃあぁ!」「このまま全員ぶっ殺そうぜ」

なにか、アトラクションの出し物のような愉快さを覚えて、僕は友達と蝉を殺しまくっていた。

 

 

そしてほぼ全員倒し終わったところで目が覚めた。

......。めっちゃ怖かった......。

最後のとこがなんかアメリカのB級ゾンビ映画のようなクソさの展開になったのが、目が覚めてから残念に思ったことだった。